大工単価は上がっている|公共工事設計労務単価で見る2026年の流れ
大工の労務単価は全国平均30,331円(2026年3月適用)
国土交通省が2026年2月17日に公表した公共工事設計労務単価(2026年3月から適用)では、大工(家屋の築造・屋内の造作)の全国平均が30,331円です。これは所定労働時間内8時間あたりの金額です。都道府県別に見ると、当社が47都道府県の単価表から計算した中央値は30,000円で、大工の単価は41都道府県で設定されています。地域の差もはっきりしています。
- 最も高い:宮城県34,800円
- 愛知県34,000円、東京都30,600円、埼玉県30,600円
- 千葉県30,500円、神奈川県30,400円
- 大阪府29,300円、兵庫県29,200円、福岡県29,200円
- 広島県27,600円、最も低い:鳥取県27,200円
自分の単価を考えるときは、全国平均ではなく、主に働いている都道府県の数字を起点にします。県境をまたいで現場に入る場合は、両方の県の単価を並べておくと、交渉で話がずれにくくなります。
14年連続の引上げと背景にある担い手不足
公共工事設計労務単価は、全国全職種の加重平均が25,834円です。前年3月比で+4.5%(単純平均の伸び)となり、14年連続で引き上げられました。中央建設業審議会の勧告文書では、平成24年から令和7年までの13年間で、全国全職種平均が約90%上昇したと記載されています。
上昇の背景には、担い手の高齢化と若手の不足があります。同じ勧告文書では、建設業の技能者に占める60歳以上は25.8%、30歳未満は11.7%とされています(総務省「労働力調査」令和6年平均)。造作まで任せられる大工は、今後さらに確保しにくくなると考えられます。
こうした流れは、単価交渉で「業界全体の水準が上がっている」と伝える客観的な材料になります。ただし、どの現場でも単価が上がると約束するものではありません。あくまで、話を切り出すときの根拠の一つとして使います。
労務単価は民間の相場・一人親方の手取りではない
公共工事設計労務単価は、公共工事に従事した労働者の賃金を調べて決めた、公共工事の積算用の単価です。民間工事の相場でも、一人親方の手取りでも、手間請けの平米単価でもありません。この単価には、次のものが含まれていません。
- 時間外・休日・深夜の割増
- 法定福利費(事業主負担分)・安全管理費・宿舎費などの必要経費
- 一般管理費
つまり「労務単価が30,331円だから、日当30,000円で受ければ十分」とは言えません。一人親方は、道具・車両・保険料・移動の費用を自分で負担します。そのため、労務単価をそのまま日当にすると、経費の分だけ手取りが削られます。労務単価は「職人本人の賃金部分の目安」として扱い、経費は別に積み上げる、という順番で考えるのが基本です。
大工単価が上がっても自分の単価が上がらない理由
元請の受注単価が上がらないと下請に回らない
労務単価が上がるのは、まず公共工事の積算です。民間の住宅やリフォームでは、施主と元請・工務店の契約金額が上がらない限り、下請の大工に払う単価も上がりにくい構造があります。特に、価格競争が激しい分野では差が出やすくなります。
- 建売住宅
- 規格住宅
- 保険修理
元請の受注金額が据え置かれると、その下で働く大工の単価も据え置かれがちです。この構造を知っておくと、取引先の見方が変わります。単価が上がりやすいのは、次のような取引先です。
- 公共工事を受けている元請
- 注文住宅や改修を直接受けている工務店
- 材料費の上昇を契約に反映できている会社
取引先が1社に偏っている場合は、こうした会社を新しい開拓先の候補に加えることが、単価を上げるための現実的な一手になります。
常用の日当は「据え置き」が起きやすい
常用(人工)で受けている日当は、一度決まると何年も同じ金額のまま続くことが少なくありません。元請の担当者から見ると、日当は「毎月の固定費」です。自分から見直すきっかけを作る動機が弱いためです。上がるのを待つのではなく、こちらから見直しのタイミングを作ります。
- 毎年3月:新しい労務単価の公表後に、前年からの変化を確認する
- 契約の更新時や、新しい現場に入る前
- 担う工程が増えたとき(造作・墨出し・手配などを任された)
- 資格を取ったとき、労災特別加入を済ませたとき
日当の交渉は、現場の途中より、新しい現場の条件を決める前のほうが通りやすい傾向があります。現場の途中で単価を変えると、元請はすでに出している見積りとの差額を負担することになるからです。次の現場の打合せで、根拠を添えて新しい単価を示すのが基本の順番です。
求人の給与欄の数字との開き
当サイトに掲載中の大工の求人(2026年11月7日時点・日給表示の5件)では、給与欄の下限の中央値は15,000円でした。下限の中央付近の幅は15,000円〜17,000円です。これは掲載求人の給与欄の下限を集計したもので、実際の支給額や平均額ではなく、実態の調査でもありません。件数も少ないため、相場として一般化はできません。
雇用の求人は、見習いや経験の浅い人も募集の対象に含みます。また、雇用主が社会保険料や道具代を負担しています。そのため、一人親方の日当と単純には比べられません。それでも、次の点は判断材料になります。
- 雇用の給与欄の下限は、労務単価の大工30,331円とは開きがある
- 一人親方が「雇用より少し高い」程度で受けると、経費を引いた手取りが雇用を下回る場合がある
雇用と比べるときは、表面の日当ではなく、経費と保険料を引いた後の手取りで比べることが大切です。
単価上昇を自分の単価に反映させる材料
2025年12月施行の労務費ルール(建設業法第20条・第19条の3)
改正建設業法の労務費に関わる規定は、2025年12月12日に全面施行されました。中央建設業審議会は「労務費に関する基準」(いわゆる標準労務費)を作り、令和7年12月2日にその実施を勧告しています。交渉に使える主な規定は次のとおりです。
- 第20条(見積り):通常必要と認められる額を著しく下回る労務費などで見積りをしてはならず、注文者もその水準への見積りの変更を求めてはならない
- 第19条の3(契約):注文者が取引上の地位を不当に利用して、原価に満たない請負代金で契約することの禁止(第1項)。受注者が正当な理由なく、原価に満たない金額で契約することの禁止(第2項)
- 資材高騰などのおそれがある場合は、契約までに「おそれ情報」と根拠を通知できる
見積りの規制と契約の規制は、別々の規定です。また、値下げの要請がすべて違法になるわけではありません。「著しく低い」かどうかは個別に判断されるため、国土交通省の資料や相談窓口で確認してください。交渉の場では、責める材料ではなく「国のルールに沿った単価を出しています」と伝える根拠として使うと、話が前に進みやすくなります。
148%の考え方で経費込みの単価を組む
国土交通省は参考値として、次のように示しています。労務単価25,834円の場合、事業主が労働者1人を雇うのに必要な経費は38,234円(148%)です。内訳は、法定福利費・労務管理費等が7,492円(29%)、安全管理費・宿舎費・送迎費等の現場作業にかかる経費が4,909円(19%)です。国交省は、この必要経費分を下請代金に計上しないことや値引くことを、不当行為としています。
一人親方は雇われていませんが、同じ種類の費用を自分で負担しています。単価を組み立てるときは、次の順で積み上げると根拠を説明しやすくなります。
- 地域の大工の労務単価を、賃金部分の目安として置く
- 国民健康保険・国民年金・労災特別加入の保険料を、稼働日数で割って日割りにする
- 道具の更新費・車両費・燃料・駐車場代を日割りにする
- 事務・見積りなどに使う、現場に出ない日の分を上乗せする
148%は雇用を前提にした国の参考値です。そのまま一人親方の適正単価と言い切ることはできません。ただ、「労務単価に経費を足すのは当然」という考え方の裏付けとしては使えます。
資格・工程・対応範囲で「上がる理由」を作る
元請が単価を上げる判断をするのは、「この人に頼むと手間が減る」と分かったときです。業界全体の上昇だけでは、個別の単価はなかなか動きません。自分の側にも上がる理由を用意します。
- 対応工程:構造躯体だけか、造作・内装下地・建具の取付けまで一人で完結できるか
- 段取り力:墨出し・材料の拾い出しや手配・他職との工程調整を任せられるか
- 保有資格:技能士や安全関係の特別教育・技能講習の修了など、現場に入る条件を満たしているか
- 品質の記録:施工写真・手直しの少なさ・工期の順守を、日付と一緒に残しているか
資格は、取得にかかる費用と期間に対して、単価にどれだけ効くかを見極めることが大切です。どの資格から取ると費用対効果がよいかを比べたい人は、単価が上がる資格ランキングと費用対効果で整理できます。取った資格は見積書やプロフィールに書き、相手から見える形にしてはじめて交渉材料になります。
単価を上げても手取りを減らさないための確認
常用から請負に切り替えるときの下限の出し方
常用の日当が上がりにくい場合は、手間請け(請負)に切り替えて、施工の速さを単価に反映させる方法もあります。ただし、手間請けの平米単価・坪単価には公的な単価がありません。相場の数字を頼りにすると、根拠のない安値で受けてしまう危険があります。下限は、次の計算の考え方で出します。
- 平米単価の下限の目安 = 自分の日当の目安(経費込み)÷ 1日に施工できる量
- 1日の施工量は、過去の現場の実績(日報・写真の日付)から出す
- 手待ち・移動・片付け・手直しの時間を差し引いた「実際に進む量」で計算する
たとえば、提示された平米単価に自分の1日の施工量を掛けた金額が、経費込みの日当を下回る場合は、その単価では常用より不利になります。請負に切り替えると、手直しや工期の遅れのリスクも自分が負います。そのため、範囲・数量・材料の支給の有無・追加工事の扱い・支払条件を、契約前に書面で確認しておきます。
インボイスの経過措置と消費税の扱い
単価が上がっても、消費税の扱いを誤ると手取りは増えません。元請が免税事業者から仕入れた場合、仕入税額相当額を控除できる割合は段階的に下がっていきます(令和8年度税制改正後)。
- 2026年9月30日まで:80%
- 2026年10月1日〜2028年9月30日:70%
- 2028年10月1日〜2030年9月30日:50%
- 2030年10月1日〜2031年9月30日:30%
- 2031年10月1日以降:控除なし
インボイス登録をした場合の負担を軽くする特例もあります。2割特例は、個人事業者なら2026年分までです。2027年分・2028年分は、個人事業者のみ3割特例(売上税額の3割を納付)を使えます。条件は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下で、インボイス登録をしていることです。簡易課税を選ぶ場合、建設業のみなし仕入率は原則第3種70%で、材料の支給を受けて労務だけを提供する場合は第4種60%です。登録するか、どの方式を選ぶかは、取引先の構成と売上によって変わるため、税務署・税理士に確認して判断してください。
労災特別加入と名鑑プロフィールで信頼材料を見せる
単価を上げる交渉は、「この人なら任せられる」と相手が判断できる材料がそろっているほど進めやすくなります。労災特別加入は、自分のけがへの備えであると同時に、元請が現場に入れる条件として確認する項目でもあります。加入証明をすぐ出せる状態にしておくと、新しい取引先にも入りやすくなります。企業・職人名鑑やプロフィールには、次の項目を具体的に書きます。
- 工種:新築木造の躯体・造作、リフォーム、内装下地など、受けられる範囲
- 対応エリア:市区町村単位、移動できる範囲
- 保有資格・講習の修了
- 労災特別加入の有無、インボイス登録の有無
- 常用・請負のどちらで受けられるか、空いている時期
閑散期の予定を事前に載せておくと、繁忙期に人手を探している元請・協力会社から連絡が来るきっかけになります。取引先が増えれば、単価の低い仕事を断りやすくなり、結果として平均の単価を上げることにつながります。
まとめ
大工単価は、公共工事設計労務単価(2026年3月適用)で全国平均30,331円となり、全職種で14年連続の引上げという上昇の流れにあります。ただし、これは公共工事の積算用の賃金です。民間の相場や一人親方の手取りではありません。自分の単価に反映させるには、次の順で進めます。まず、地域の労務単価を起点に、保険料・道具・車両の経費を積み上げた根拠を作ります。次に、2025年12月に全面施行された労務費ルールを背景に、新しい現場の条件を決める前に提示します。あわせて、請負に切り替える場合は日当÷施工量で下限を確認し、インボイスと消費税の扱いを整えて手取りを守ります。最初の一手としては、名鑑のプロフィールに工種・エリア・資格・労災特別加入の状況を書き込み、単価の見直しに応じやすい取引先との接点を増やすことから始めてください。