建設国保の扶養はどうなる?仕組みの結論
国保組合には「被扶養者」という区分がない
会社員が入る協会けんぽや健康保険組合には、本人の保険料だけで配偶者や子どもが保険証を持てる「被扶養者」という仕組みがあります。一方、建設国保は国民健康保険組合なので、この仕組みがありません。家族は「組合員の家族」として加入し、組合の規約で決められた保険料が家族の分もかかるのが基本です。
ここを誤解したまま「家族は扶養に入れてあるから保険料はゼロ」と思い込むと、毎月の固定費を読み違えます。経営者が見るべきなのは「扶養に入れるかどうか」ではなく、「家族を含めた世帯全体で、いくら保険料を払っているか」です。
- 協会けんぽ・健保組合:被扶養者の保険料は原則かからない
- 建設国保:家族も加入者として保険料の対象になるのが基本
- 市町村の国民健康保険:同じく扶養の仕組みはなく、世帯単位で計算される
家族1人あたりの保険料の額や、年齢による区分の有無は組合ごとに違います。金額は加入している組合の案内で必ず確かめてください。
協会けんぽの「扶養」の基準との違い
比較のために、協会けんぽなど健康保険の被扶養者の収入基準を押さえておきます。健康保険の被扶養者になれるのは、原則として年間収入130万円未満の家族です。19歳以上23歳未満の家族は150万円未満が基準になります。年間収入が130万円以上になると扶養から外れます。
この基準は、建設国保には当てはまりません。建設国保では家族の収入が少なくても「保険料がかからない扶養」にはならないため、たとえばパート収入が少ない配偶者や学生の子どもがいる世帯ほど、健康保険の被扶養者制度との差が大きく出ます。
逆に、家族がそれぞれ自分の勤め先の健康保険に入っている世帯では、建設国保に入るのは経営者本人だけになり、扶養の有無による差はほとんど出ません。比較を始める前に、家族一人ひとりが今どの保険に入っているかを一覧にしておくと、判断を誤りにくくなります。
税の扶養とは別の制度として考える
「扶養」という言葉は、税の扶養と健康保険の扶養で意味が違います。建設国保に入っていても、税の扶養控除や配偶者控除は所得税・住民税のルールで判断されるので、保険の扱いとは切り離して考えます。2026年分の主な基準は次のとおりです。
- 税の扶養(扶養控除・配偶者控除)の対象:給与収入136万円以下
- 配偶者特別控除:満額38万円が給与収入169万円以下、207万円超で0
- 給与収入だけなら年178万円以下は所得税がかからない(2026・2027年分)
- 住民税:2026年の給与収入119万円以下なら翌年度は非課税(均等割の基準は自治体で異なる)
つまり、配偶者が税の扶養に入っていても、建設国保ではその配偶者の保険料がかかります。家族の働き方を決めるときは「税」「健康保険」「年金」を別々に確かめるのが原則です。控除額の細かい計算や自分の世帯への当てはめは、税理士・税務署に確認してください。
加入組合に確認しておく項目
建設国保の保険料や給付は、組合の規約で決まります。比較や判断の前に、次の項目を組合の案内や窓口で確認しておきます。
- 組合員本人の保険料の区分(事業主・従業員・一人親方などで分かれているか)
- 家族1人あたりの保険料と、年齢による区分の有無
- 介護保険料が加算される年齢層の扱い
- 法人化した場合や従業員を雇った場合に加入を続けられる条件
- 傷病手当金・出産手当金などの給付の有無と条件
- 加入・脱退・切り替えの届出の期限
とくに「法人化したら続けられるか」「従業員も加入できるか」は、後で説明する経営判断に直結します。電話や窓口で聞いた内容は、日付と担当部署を手元に残しておくと、税理士や社労士と相談するときに話が早く進みます。
経営者が家族の保険を見直すべき場面
個人事業から法人化するとき
法人化すると、会社は健康保険・厚生年金の適用事業所になります。このとき、すでに建設国保に入っている人は、年金事務所で「健康保険被保険者適用除外」の承認を受ければ、健康保険は建設国保のまま、年金だけ厚生年金に入る形を選べる場合があります。承認を受けなければ、協会けんぽなどの健康保険に切り替わります。
この選択で家族の負担が変わります。協会けんぽに移れば、収入基準を満たす家族は被扶養者になり、家族分の保険料はかかりません。建設国保を続ければ、家族分の保険料は引き続きかかります。一方、保険料の計算方法も違うため、役員報酬の額によっては建設国保の方が負担が軽くなることもあります。
適用除外の申請は期限が短く、過ぎると原則として協会けんぽに入ることになります。法人化の登記日が決まった段階で、年金事務所と加入組合に手続きの期限と必要書類を確認しておくことが、取り返しのつかない選択ミスを防ぐ一番の手です。
家族を役員・従業員にするとき
配偶者や子どもを会社の役員や従業員にすると、その家族は「扶養される側」ではなく「自分で保険に入る側」になります。法人であれば、役員・従業員として厚生年金と健康保険(または適用除外を受けた建設国保)の被保険者になるのが原則です。
判断のときに見るのは、次の点です。
- 家族に支払う報酬・給与の額と、それに対する保険料の会社負担・本人負担
- 家族が加入する保険(協会けんぽか建設国保か)と、加入できる条件
- 厚生年金に入ることで将来の年金がどう変わるか
- 税の扶養から外れることで、経営者本人の控除がどう変わるか
家族に給与を出すことは、節税や家計の分散の手段として語られがちですが、保険料の会社負担も一緒に増えます。手取りと会社の負担を合わせた「世帯と会社の合計の出費」で比べないと、得をしたつもりで固定費が増えている、ということが起こります。
配偶者が別の勤め先でパート勤務する場合
配偶者が他社でパートとして働く場合、勤め先の社会保険に本人が加入するかどうかで、建設国保の家族加入が必要かどうかが変わります。2026年10月1日に短時間労働者の月額賃金の要件は撤廃され、現在の主な要件は次のとおりです。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 2か月を超える雇用の見込みがある
- 学生でない
- 勤め先の従業員が51人以上
これらを満たすと、配偶者は勤め先の健康保険・厚生年金に本人として加入します。この場合、建設国保の家族としての加入をやめる手続きが必要になり、建設国保の家族分の保険料はかからなくなります。手続きを忘れると二重に保険料を払う状態が続くため、配偶者の勤務条件が変わったら、その月のうちに加入組合へ届け出るよう家族内でルールを決めておくと安心です。
国民年金の扱いも同時に確認する
見落としやすいのが年金です。会社員の配偶者は、厚生年金の被保険者に扶養されることで国民年金の第3号被保険者になり、自分で保険料を払わずに済みます。しかし、経営者本人が個人事業主で国民年金の第1号被保険者の場合、配偶者は第3号にならず、配偶者自身も国民年金の保険料を払います。
法人化して経営者本人が厚生年金に入れば、収入などの条件を満たす配偶者は第3号被保険者になれる可能性があります。このとき、健康保険を建設国保のまま続けても、年金は厚生年金なので、第3号の扱いは年金の側で判断されます。
健康保険で「建設国保か協会けんぽか」を比べるときに、年金の変化を一緒に計算しないと、世帯全体の負担を正しく比べられません。保険と年金は窓口が違うため、組合と年金事務所の両方に確認し、同じ表に並べて比べることを勧めます。
建設国保と協会けんぽを比べる手順
比較の前にそろえる資料
比較は「なんとなく建設国保の方が安い」という感覚ではなく、自社と自分の世帯の数字で行います。最初に次の資料を手元にそろえます。
- 建設国保の保険料の案内(本人・家族の区分ごとの額)
- 世帯全員の年齢と、それぞれの今の加入保険
- 家族それぞれの年間収入の見込み
- 法人化後、または現在の役員報酬・給与の予定額
- 協会けんぽの都道府県別の保険料率(協会けんぽの公表資料)
- 厚生年金・国民年金の保険料の案内
協会けんぽの保険料率は都道府県ごとに違い、毎年見直されるため、記事や過去の資料の数字ではなく、比較する年度の最新の公表値を使います。役員報酬を見直す予定があるなら、変更後の額でも同じ計算をしておくと、報酬と保険料のバランスを一緒に検討できます。
保険料を並べる計算の流れ
資料がそろったら、次の順番で並べると比較の抜け漏れが減ります。
- 建設国保の場合の、本人と家族全員の年間保険料を合計する
- 協会けんぽの場合の、報酬に保険料率を掛けた年間保険料を出す(会社負担と本人負担の両方)
- 協会けんぽで被扶養者になれる家族を、収入基準(130万円未満、19歳以上23歳未満は150万円未満)で判定し、家族分の保険料を0にする
- 年金の負担(国民年金か厚生年金か、配偶者が第3号になれるか)を足す
- 会社負担と世帯負担を合計し、両方のパターンで比べる
法人の場合、協会けんぽの保険料は会社と本人で折半になりますが、経営者にとっては会社負担分も実質的な出費です。会社負担を除いて「本人負担だけなら安い」と判断しないことが大切です。家族が多く、報酬が低めの会社では建設国保が有利になりやすく、報酬が高く被扶養者が多い場合は協会けんぽが有利になる、という傾向はありますが、最終的には自社の数字で確かめてください。
保険料以外の給付の差も確認する
比較は保険料だけでは不十分です。病気やけがで働けなくなったときの給付は、経営者や職人の生活を左右します。協会けんぽには、業務外の病気やけがで仕事を休んだときの傷病手当金や、出産時の出産手当金があります。建設国保では、これらの給付がない、または支給の条件や額が協会けんぽと違う組合があります。
確認したい点は次のとおりです。
- 傷病手当金の有無、支給される期間と額の決め方
- 出産手当金の有無と対象者(本人のみか、家族も含むか)
- 付加給付や健診の補助など、組合独自の上乗せ
- 入院時の負担軽減などの独自制度
現場で体を使う仕事は、業務外のけがや病気でも長期離脱につながりやすいものです。保険料の差がわずかなら、給付の手厚さを優先する判断もあり得ます。なお、仕事中のけがは健康保険ではなく労災保険の対象で、一人親方は特別加入が別途必要です。
切り替えの判断と手続きの期限
比較の結果、保険を切り替えるか続けるかを決めたら、手続きの期限を逆算します。健康保険の適用除外の申請、建設国保の脱退届、協会けんぽへの加入手続きは、それぞれ届出先と期限が違います。とくに適用除外は、期限を過ぎると原則として協会けんぽへの加入となり、あとから建設国保に戻すのは難しくなります。
実務では次の順で進めると混乱が少なくなります。
- 法人化や家族の勤務変更が決まった時点で、変更日を確定させる
- 加入組合と年金事務所に、必要書類と期限をそれぞれ確認する
- 社労士に依頼する場合は、変更日の前に比較表と資料を渡す
- 手続き後、新しい保険証と保険料の通知で内容を確かめる
決算期の前後や繁忙期は手続きが後回しになりがちです。期限の近い届出だけでも、所長や事務担当と共有しておくと抜けを防げます。
保険の負担を単価と協力会社選びに反映する
法定福利費は見積に別建てで載せる
建設国保であれ協会けんぽであれ、職人を雇えば会社には保険料の負担が発生します。これを単価に埋もれさせると、値引きのたびに削られます。国土交通省は、公共工事設計労務単価(2026年3月適用)の全国全職種の加重平均25,834円の場合、事業主が労働者1人を雇うのに必要な経費は38,234円(148%)という参考値を示しています。内訳は、法定福利費・労務管理費等7,492円(29%)、安全管理費・宿舎費・送迎費等の現場作業にかかる経費4,909円(19%)です。
この労務単価は公共工事の積算用の賃金で、民間工事の相場や一人親方の手取りではありません。それでも、国交省は必要経費分を下請代金に計上しないことや値引くことを不当行為としています。見積書では、労務費と法定福利費を分けて書き、「法定福利費は値引きの対象外」と明記しておくと、交渉の土台が崩れにくくなります。
協力会社・一人親方の保険加入を確認する
外注先を選ぶときは、相手が健康保険・年金・雇用保険に適切に入っているかを初取引前に確認します。建設国保は健康保険の代わりとして認められる保険なので、「協会けんぽでないから未加入」とは判断しません。確認するのは次の点です。
- 健康保険:協会けんぽ・健保組合・建設国保・市町村国保のいずれか
- 年金:法人なら厚生年金、個人事業なら国民年金など
- 雇用保険:従業員を雇っている場合の加入状況
- 一人親方の場合:労災保険の特別加入の有無
施工体制台帳や再下請負通知書には、社会保険の加入状況を書く欄があります。加入状況は保険証の写しや加入証明で確かめ、口頭の申告だけで済ませないことが、元請や発注者からの確認に耐える体制づくりにつながります。
保険料の上昇を価格転嫁で伝える
保険料や賃金の上昇は、会社の努力だけで吸収し続けられるものではありません。元請や施主に単価の見直しを申し入れるときは、感覚ではなく根拠を示します。
- 公共工事設計労務単価(2026年3月適用)が前年3月比+4.5%で、14年連続で引き上げられたこと
- 法定福利費を含めた必要経費の考え方(国交省の参考値)
- 自社の保険料・賃金の前年からの増加額
- 見積書の法定福利費の内訳
建設業法第19条の3は、注文者が取引上の地位を利用して原価に満たない不当に低い請負代金で契約させることを禁じています。申し入れは書面で行い、回答も記録に残します。通報や申し入れを理由とした不利益な扱いも、第24条の5で禁止されています。
人手を借りるときは保険の負担者を決めておく
急に人手が足りなくなったとき、他社から職人を「応援」で借りる場面があります。建設業務への労働者派遣は禁止されているため、応援は「工事の一部を請け負ってもらう」か「自社で雇用する」かのどちらかで整理し、保険の負担者もそれに合わせます。
- 請負で頼む場合:作業の指揮は相手の会社が行い、職人の保険は相手の会社が負担する。注文書・注文請書で範囲と金額を決める
- 自社で雇用する場合:自社が指揮命令し、雇用保険や社会保険の加入要件に当たれば自社で手続きする
- 避けるべき形:相手の会社の職人に自社の監督が直接細かく指示し、日当だけを相手の会社に払う(偽装請負になりやすい)
請負で頼むなら、自社の監督が指示するのは相手の職長までにとどめます。初取引の前に、相手の保険加入と請負の範囲を書面でそろえておけば、急な応援でも慌てずに済みます。
まとめ
建設国保には協会けんぽのような被扶養者の仕組みがなく、家族も加入者として保険料の対象になるのが基本です。税の扶養とは別の制度なので、家族の働き方を決めるときは税・健康保険・年金を分けて確認します。法人化や家族の雇用、配偶者の勤務条件の変化は、保険を見直すタイミングです。比較は会社負担と世帯負担を合わせた総額で行い、給付の差と手続きの期限も確認してください。明日の一手としては、まず家族全員の加入保険と収入を一覧にし、加入組合に家族分の保険料と法人化時の扱いを問い合わせることから始めましょう。あわせて、自社の見積書で法定福利費を別建てにし、協力会社の保険加入を書面で確かめれば、保険の負担を利益を削る要因から、単価の根拠へと変えていけます。