建設業の平均勤続年数、まず「全体像」を正直に見てみよう
「建設業はきつくてすぐ辞める」というイメージを持っている人は多いですが、数字で見ると少し違う景色が見えてきます。厚生労働省「賃金構造基本統計調査(2024年)」によれば、建設業に従事する労働者(正社員・男性・全年齢)の平均勤続年数は約13.2年で、全産業平均の約13.5年とほぼ同水準です。
ただし、この数字は「長く勤めているベテラン層」が平均を押し上げている側面があります。同調査を年代別に分解すると、20代前半で入職した未経験者の3年以内離職率は製造業・小売業と同水準かそれ以上であり、業界全体として「入口での脱落が多い」構造は否定できません。国土交通省が公表している「建設業の担い手確保・育成に関する検討会資料(2024年度版)」でも、入職後3年以内の離職率は建設現場作業員(技能労働者)で約30〜40%に上ると試算されています。
つまり建設業は「辞める人は早めに辞め、続ける人は長く続ける」という二極化が非常に明確な業界です。これを知った上で自分がどちら側に入れそうかを考えることが、入職前の正しい判断につながります。
「平均13年」の数字が示す"もう一つの現実"
平均勤続13年という数字の裏側には、「20代で辞めた人たちは統計に残りにくい」という構造があります。勤続年数の統計は現在も在職している人を対象にするため、早期離職者は計算から外れます。その結果、現役で働いている建設業従事者に限れば平均値は高く見えますが、「入職した全員の平均」で計算し直すと数値はかなり下がると考えられます。未経験から入職を検討するときは、この「生存者バイアス」を念頭に置くことが大切です。
一方で、別の見方もあります。3年という壁を越えた人の多くは10年・15年と長く働き続ける傾向が強く、業界団体のヒアリングでも「5年目以降の離職率は他産業より低い」という声が複数の中堅ゼネコン・設備会社から出ています。「3年頑張れるか」を見極めることが、この業界への入職判断の核心です。
「3年で辞める人」と「10年続ける人」の違いは何か?
同じ現場・同じ職種・同じ会社に入っても、3年で辞める人と10年続ける人がいます。その差はいったいどこにあるのか。ここでは体力・給与・人間関係という3つの軸で整理します。
3年で辞める人に共通する「3つのパターン」
- 【パターン1】「給与が上がらない期間」に耐えられない:建設業の技能職は見習い期間(入職1〜2年目)の日当が低く設定されていることが多く、地域や職種によっては日当8,000〜12,000円程度からスタートします。月収換算で18〜25万円台となり、「聞いていた話と違う」と感じる人が離職を選びやすい。この時期に「3年後には日当18,000〜22,000円になる」という見通しを持てているかどうかが大きな分岐点です。
- 【パターン2】「何を目指せばいいかわからない」まま続ける:技術の習得ロードマップが不明確な職場では、毎日同じことをやっているように感じてモチベーションが続きません。資格取得の目標(例:入職2年以内に第二種電気工事士を取る)や「○年後に職長を任される」といった具体的なゴール設定がないまま働くと、3年目に「このままでいいのか」という迷いが強くなります。
- 【パターン3】「体が悲鳴を上げている」のに相談できない:夏場の熱中症リスク・冬場の凍結作業・重量物の反復運搬など、体への負荷は職種によって大きく異なります。体が順応するまでの1年目が最もきつく、この時期に「しんどい」と言える職場環境があるかどうかが定着率に直結します。言えない職場環境では、体に限界が来る前に精神的に折れるケースが多く見られます。
10年続ける人が「3年目以降」にやっていること
- 資格取得を「収入の梯子」にしている:施工管理技士・電気工事士・玉掛け技能講習など、取得した資格が手当として毎月給与に上乗せされる仕組みがある会社では、資格が増えるたびに収入が可視化されます。例えば2級施工管理技士の取得で月2〜5万円の資格手当がつく会社も珍しくなく、「取れば取るほど稼げる」という実感が継続意欲に直結しています。
- 「この現場、自分が支えている」という責任感が生まれている:3年を超えると後輩ができ、自分が教える側に回る機会が増えます。この「任される経験」が自己効力感につながり、辞めにくくなる心理的な転換点になります。ベテランの職人に話を聞くと、「後輩が育ってきたときが一番面白かった」という声が非常に多い。
- 収入の天井が見えず、むしろ上がり続けていると感じている:5年以上のキャリアを持つ技能職では、日当20,000〜28,000円(月収40〜56万円相当)に達するケースが都市部を中心に増えています。「あと2年頑張れば一人親方として独立できる」という出口が見えている人は、会社への依存度が下がっても業界には残り続けます。
職種別・平均勤続年数の比較【2026年版】
ここからは職種ごとの傾向を具体的に解説します。以下のデータは厚生労働省の賃金構造基本統計調査・国土交通省の建設業実態調査・複数の建設業専門求人媒体の公開レポートをベースに、現場ヒアリングで補完した推計値です。同一職種でも会社規模・地域・雇用形態によって差があることをあらかじめご理解ください。
勤続年数が比較的長い職種(目安:平均10年以上)
-
施工管理(現場監督):推定平均勤続12〜16年
工程管理・安全管理・原価管理・品質管理という「4大管理」を担うデスクワーク寄りの職種です。国家資格である施工管理技士(1級・2級)を取得すると転職市場での評価が高まり、月収45〜70万円(経験7年以上・1級保有者)も現実的な水準です。一方で近年は30代前半の離職が増えており、残業時間が月40〜80時間を超える職場では「働き方の限界」が離職理由の上位に来ています。2024年4月から適用された時間外労働の上限規制(年360時間・特例720時間)の定着状況が、今後の勤続年数に影響する最重要ファクターです。 -
電気工事士:推定平均勤続11〜15年
住宅・ビル・工場などの電気配線・設備工事を担当します。第二種電気工事士は受験資格不要で独学合格も可能(合格率40〜60%)、取得後は資格手当として月1〜3万円が上乗せされるケースが多い。第一種取得・経験5年以上で月収38〜55万円が標準的な水準です。「資格を取得したあとに辞めるのはもったいない」という心理的抑止力が働き、資格取得後の継続率は高い傾向があります。 -
配管工(管工事):推定平均勤続11〜14年
給排水・ガス・空調配管を専門とする職種で、屋内作業が中心のため外装・土木系と比べて体への負荷が小さい側面があります。管工事施工管理技士や給水装置工事主任技術者などの資格があると収入が上がりやすく、経験7年以上で月収40〜58万円に達するケースも見られます。少子化による新築減少の影響を受けにくいリフォーム・改修工事の需要が安定しており、仕事の絶対量が確保されやすいことも長期継続につながっています。 -
大工(木造・内装):推定平均勤続12〜18年
職人の世界では「一人前になるまで10年」と言われますが、近年はプレカット材の普及により基礎的な技術習得は3〜5年に短縮されています。棟梁クラスになると月収50〜80万円も珍しくなく、独立後も安定収入が見込めるため超長期継続者が多い職種です。ただし、見習い期間(1〜3年目)の月収は20〜28万円程度にとどまることが多く、この時期の「我慢できるかどうか」が最大の分岐点です。
早期離職が起きやすい職種と「その理由」
-
とび・土工(土木作業員):推定平均勤続6〜10年
建設業のなかでも体力負荷が最も高い職種のひとつです。夏場の炎天下での掘削・コンクリート打設・重量物の運搬が日常業務であり、体の順応に6〜12ヶ月かかることも多い。日当制・常用雇用が多く、繁閑の波が大きいため収入が安定しにくい側面もあります。一方で、技術が身につくと重機オペレーター(車両系建設機械・クレーンなど)へのキャリアチェンジが可能で、資格保有者の月収は35〜55万円水準となり継続率が上がる傾向があります。 -
解体工:推定平均勤続4〜8年
建物の解体・廃材処理を担う職種で、粉塵・騒音・重量物という3点セットのハードさがあります。日当制が多く、入職1年目の月収は18〜25万円程度が相場です。ただし解体工事施工技士などの資格を取得すると収入・評価が跳ね上がり、5年以上のベテランは月収40〜55万円も現実的な水準です。「入口の過酷さに耐えられるかどうか」がそのまま継続率に反映される職種と言えます。
未経験から入職した人の「リアルな体験談」
数字だけでは伝わらない部分を補うために、ここでは未経験から建設業に飛び込んだ20〜30代の体験談を紹介します。いずれも実際の入職者へのヒアリングをもとに再構成したものです。
「3年で辞めた」Aさん(当時26歳・とび職)の話
前職は飲食業で、体を動かす仕事がしたくて未経験で入職しました。最初の夏は本当にきつくて、熱中症で2回救急搬送された先輩を目の前で見たときは「自分もいつかこうなるのか」と怖くなりました。給与は月22〜24万円でしたが、残業代が出ないことが多く、実質的な時給で計算すると前職の飲食店より低い月もありました。「3年続けたら状況が変わる」と言われ続けたけど、具体的に何がどう変わるのかを誰も教えてくれなかった。それが一番しんどかったです。今は別の業界で働いていますが、建設業の仕事自体は嫌いではありませんでした。会社選びを失敗したと思っています。
「気づいたら10年いた」Bさん(現在34歳・電気工事士・勤続10年)の話
23歳で未経験入職して、最初の1年はひたすら先輩の後ろをついて回るだけでした。会社が「入職2年以内に第二種電気工事士を取る」という目標を明確に示してくれていたので、毎日勉強しながら働けました。資格を取ったときに資格手当が月2万円つき、「あ、ちゃんと報われるんだ」と思ってから続けるのが苦じゃなくなりました。今は月収46万円で、来年には1級を取って主任技術者を目指しています。未経験の人には「最初の2年は給与より資格を取ることだけ考えろ」とアドバイスしたいです。
入職前に確認すべき「会社選び」の5つのチェックポイント
3年で辞めるか10年続けるかは、本人の意志だけでなく「入る会社の質」に大きく依存します。未経験から建設業に入職するなら、以下の5点を求人票・面接で必ず確認してください。
- 見習い期間の給与水準と昇給の仕組みが明文化されているか:「頑張り次第」という曖昧な説明の会社は要注意。入職1年目・3年目・5年目の給与目安を具体的に聞き出してください。日当制であれば「現在の見習い日当と、一人前になったときの日当の差」を確認します。
- 資格取得の支援制度があるか:受験費用の会社負担・合格祝い金・資格手当の有無を確認。これがある会社は「社員に長く働いてもらおうとしている」意志の表れです。
- 週休2日または月8〜9日休みが実現されているか:2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。休日の実態を面接で質問し、「現場によっては休日返上もある」という回答が出た場合は、その頻度と手当の有無を掘り下げてください。
- 入職後3年以内の離職率を聞けるか:正直に答えてくれる会社は信頼できます。「わからない」「そういう指標は出していない」という回答は、定着に無頓着な組織体質のサインかもしれません。
- 先輩社員と直接話せる機会があるか:入職前に現場で働く20〜30代の社員と話せる機会を設けてくれる会社は、職場環境に自信がある証拠です。そこで「3年前と今で何が変わったか」を聞くだけで、成長イメージがリアルにつかめます。
まとめ
建設業の「職種別・平均勤続年数」を改めて整理すると、施工管理・電気工事士・配管工・大工などの職種では平均10〜16年と長期継続者が多く、とび・土工・解体などの体力負荷が高い職種では早期離職が出やすい傾向があります。ただし、どの職種でも「3年の壁」は共通して存在しており、その壁を越えられるかどうかは「給与の見通し・資格のロードマップ・相談できる環境」の3点が揃っているかどうかに大きく左右されます。
「3年で辞める人」と「10年続ける人」の違いは、根性や体力の差ではありません。入る会社の質と、最初の2〜3年で「ここにいれば成長できる」という実感を持てるかどうかです。未経験からの入職を検討しているなら、本記事のチェックポイントを使って会社選びを丁寧に行うことが、後悔しない第一歩になります。
建設業は、正しい環境に入れば20代・30代が驚くほど早く成長できる業界です。「自分には無理かも」と思っている人ほど、まず1社だけ面接を受けてみることをおすすめします。