建設業法改正2025で何が変わったか:施行日別の全体像
2025年前後の建設業法の改正は、一度にすべてが始まったわけではありません。「いつから」「誰に」効くのかが規定ごとに違います。社内で説明するときは、施行日ごとに切り分けると混乱が減ります。
2025年2月1日施行:技術者専任・施工体制台帳の金額要件の引上げ
物価や工事費の上昇に合わせて、建設業法の各種金額要件が見直されました。現行の主な基準は次のとおりです。
- 主任技術者・監理技術者の現場専任:請負代金4,500万円以上(建築一式工事は9,000万円以上)。公共性のある施設・工作物や、多数の者が利用する施設・工作物に関する重要な建設工事が対象で、個人住宅などを除く多くの民間工事・下請工事も含まれる
- 特定建設業許可が必要な下請代金の総額、監理技術者の配置が必要な下請代金の総額、施工体制台帳の作成が必要な下請代金の総額(民間工事):5,000万円以上(建築一式工事は8,000万円以上)
- 特定専門工事(鉄筋工事・型枠工事)の対象:下請代金4,500万円未満
改正前(2023年1月〜2025年1月)の基準は、専任が4,000万円(建築一式8,000万円)、下請総額が4,500万円(建築一式7,000万円)でした。社内の受注判定表や見積システムに古い値が残っていると、技術者の配置計画を誤ります。まず確認すべき箇所です。なお、公共工事の施工体制台帳は下請金額にかかわらず必要です。
2025年12月12日全面施行:労務費の基準と著しく低い見積りの禁止
改正法(令和6年6月14日公布)は段階的に施行され、労務費の基準に関わる規定を含めて2025年12月12日に全面施行されました。改正の中心は次の3点です。
- 中央建設業審議会が「労務費に関する基準」(いわゆる標準労務費)を作成し、その実施を勧告する(建設業法第34条・勧告は令和7年12月2日)
- 労務費の基準に照らして著しく低い労務費等による見積り・請負契約は禁止(建設業法第20条)。公共・民間を問わず、発注者と元請、元請と下請、下請間のすべての階層に及ぶ
- 違反した建設業者には国土交通大臣等による指導・監督(第28条)、違反した発注者には勧告・公表(第20条)
この規定は元請だけのルールではありません。下請が仕事欲しさに自ら著しく低い見積りを出すことも対象になり得ます。「著しく低い」かどうかは個別に判断されます。迷う案件は国土交通省の資料や相談窓口で確認してください。基準値の考え方と一人親方の単価への影響は、標準労務費で一人親方の単価がどう変わるかで詳しく扱っています。
2024年12月13日の先行施行分:おそれ情報の通知と専任特例
2025年の全面施行より前に、実務に大きく効く規定が先に始まっています。1つ目は資材高騰への対応です。資材高騰などのおそれがある場合、受注者は請負契約の締結までに注文者へ「おそれ情報」とその根拠を通知します。実際に高騰したときは、受注者が請負代金の変更協議を申し出ることができます。注文者は誠実に応じるよう努めます。
2つ目は技術者の兼務を認める専任特例1号です。次の要件をすべて満たせば、専任を要する工事を2現場まで兼務できます。
- 請負代金1億円未満(建築一式工事は2億円未満)
- 現場間の移動時間がおおむね2時間以内
- 下請次数が3次以内
- 連絡員の配置
- 施工体制を確認できる情報通信技術、人員配置計画書、現場確認用の情報通信機器
あわせて「専任技術者」は「営業所技術者」(特定建設業は特定営業所技術者)に名称が変わりました。申請書類や社内規程の表記も合わせて更新しておきます。
工期ダンピングの禁止と処遇確保・内訳明示の努力義務
受注者の発意による著しく短い工期の請負契約、いわゆる工期ダンピングも禁止されました。「早く終わらせます」を受注の武器にしてきた会社は、その工期に根拠があるかを説明できるようにしておく必要があります。
努力義務として新たに求められたのは次の2つです。
- 材料費や労務費などの内訳を明らかにした見積書(材料費等記載見積書)の作成(第20条)
- 労働者の知識・技能などの能力の評価に基づく適正な賃金支払いなど、処遇の確保(第25条の27)
公共工事では、入札時に入札金額の内訳書に労務費等を明示します(入札契約適正化法第12条)。発注者はその内容を確認します(同法第13条)。公共工事に入札参加している会社は、内訳書の作り方そのものを見直す時期です。努力義務には罰則がありません。それでも、内訳を出せる会社と出せない会社では、価格交渉で説明できる材料の量に差が出ます。
受注を増やす側の対応:見積書と契約前の一手
専門工事会社や工務店が下請として仕事を取る場合、改正は「安さで取る」から「根拠で取る」への転換を求めています。相見積もりで選ばれ続けるために、見積書と契約前のやり取りを次のように変えます。
見積書を「労務費・材料費・経費」の3段に分けて出す
一式金額だけの見積書では、元請が社内で「労務費が基準に照らして適正か」を説明できません。元請も第20条の適用を受ける以上、内訳の見える見積書を出す協力会社のほうが選びやすくなります。見積書の様式は、最低限次の構成にします。
- 労務費:職種、人工数(延べ人数)、1人工あたりの単価
- 材料費:品名、数量、単価。支給材がある場合は「支給」と明記
- 法定福利費(事業主負担分):独立した行として記載
- 現場経費:安全管理費、運搬費、駐車場代、宿舎費など
- 前提条件:工期、作業時間帯、搬入条件、残材処分の扱い
法定福利費を別の行で示す見積書は、値引き交渉で真っ先に削られる部分を守る効果もあります。明日やることは、自社の見積書の雛形に法定福利費の行があるかを確認することです。無ければ追加します。
資材高騰の「おそれ情報」を契約前に書面で通知する
変更協議を申し出る根拠を残すには、契約締結までの通知が出発点になります。口頭で「最近また上がっていて」と伝えるだけでは、後から協議を申し出るときの材料になりません。次の手順で書面化します。
- 価格変動が大きい資材(鋼材・木材・石油製品由来の材料など、自社の工種で影響の大きいもの)を事前にリスト化する
- メーカーや商社からの値上げ通知、見積有効期限の短縮など、根拠になる資料を保存する
- 見積書の備考か別紙で「上記資材は価格変動のおそれがあり、変動時は変更協議を申し出る」旨と根拠を記載する
- メールで送り、送信記録を案件フォルダに残す
注文者には誠実に応じる努力義務があります。ただし、自動的に増額が認められるわけではありません。協議の場で数字を示せるよう、通知時点と高騰時点の仕入価格の比較表を作っておきます。
工期の根拠を見積に添える
工期ダンピングの禁止は、受注者側の「無理な短工期の申し出」を対象にしています。受注を急ぐあまり、職人の手配が見えていない工期で請けると、違反の問題と同時に品質事故や追加人工の持ち出しを招きます。見積時には、工期の算定根拠を簡単に添えます。
- 工程ごとの所要日数と投入人数
- 週休の前提(土日閉所か、4週何休か)
- 天候や他職の工程待ちによる予備日
- 元請から短縮を求められた場合に必要な追加人工と費用
短縮を求められたら「何人追加すれば何日縮むか、その費用はいくらか」を返すのが基本の受け答えです。断るのではなく選択肢として示します。これにより、対応力の高い会社として評価されやすくなります。
値下げ要請には内訳と法令の根拠で答える
改正後も値下げ要請そのものがすべて違法になったわけではありません。材料のグレード変更、数量の見直し、工程の合理化による減額は通常の交渉です。問題になり得るのは、労務費部分を根拠なく削る要請です。見分け方の目安は次のとおりです。
- 減額の理由が仕様・数量・工法の変更として説明されているか
- 「一律○%引き」など、内訳と無関係な削減になっていないか
- 法定福利費や安全管理費の行だけを外すよう求められていないか
労務費を削る要請には、内訳を示したうえで「労務費は基準に照らして下げられないため、材料か仕様で調整したい」と代替案を返します。不当に低い請負代金は第19条の3で禁止されています。行政への通報を理由とする不利益取扱いも第24条の5で禁止されています。判断に迷う場合は、許可行政庁や国土交通省の相談窓口に確認してください。
外に出す側の対応:協力会社の選び方と施工体制
元請や、自社でも下請を使う専門工事会社は、発注する立場として改正に対応する必要があります。人手不足のなかで協力会社を確保しつつ、法令違反の芽を潰す点検項目を整理します。
施工体制台帳と特定建設業許可のラインを案件ごとに判定する
民間工事で下請代金の総額が5,000万円以上(建築一式工事は8,000万円以上)になると、特定建設業許可、監理技術者の配置、施工体制台帳の作成が必要になります。注意したいのは「総額」で判定する点です。協力会社を追加したり、追加工事が出たりして、途中でラインを超えるケースがあります。
- 受注時に下請発注予定額の合計を試算し、ラインとの差を記録する
- 追加発注のたびに合計額を更新する
- ラインに近い案件は、所長と事務担当で月1回確認する
- 公共工事は金額にかかわらず施工体制台帳を作る
再下請負通知書の提出依頼は、初取引の書類と一緒に渡しておきます。そうすると、二次以下の業者が入った時点で把握できます。
技術者の専任ラインと兼務特例を受注計画に組み込む
専任ラインが4,500万円(建築一式9,000万円)に上がったことで、従来なら専任が必要だった規模の工事でも兼務が可能な範囲が広がりました。技術者の人数が受注の上限になっている会社では、ここが受注を増やす余地になります。
- 専任特例1号:前述の要件をすべて満たせば、専任を要する工事を2現場まで兼務できる
- 専任特例2号:各現場に監理技術者補佐(1級技士補で主任技術者の要件を満たす者、1級国家資格者など。2級では不可)を専任で置けば、監理技術者は2現場まで兼務できる
- 1号と2号は併用できない。発注者の承認は法律上の要件ではない
- 営業所技術者は、その営業所で契約した工事であれば、専任不要な工事は近接・常時連絡可能な範囲で兼務できる。専任を要する工事でも、専任特例1号の要件を満たせば1現場まで兼務できる
技術者は直接的かつ恒常的な雇用関係が必要です。在籍出向者、派遣社員、その工事の期間だけの短期雇用は認められません。人数が足りないからといって外部の人を技術者として登録することはできない点に注意してください。
見積比較の条件を揃え、応援は請負か雇用かを書き分ける
協力会社から相見積もりを取るときは、比較条件を揃えないと、労務費を削った見積りが安く見えてしまいます。依頼時に次の条件を同じ書式で渡します。
- 図面・仕様書の版、数量の前提、支給材の有無
- 工期、作業時間帯、週休の前提
- 法定福利費を別の行で記載すること
- 安全書類、保険加入状況の提出
人手が急に足りない現場で他社に「応援」を頼む場合、建設業務への労働者派遣は禁止されています。頼み方は次の2つに分けて考えます。
- 工事の請負として頼む:作業範囲・数量・完成責任を相手に任せ、指揮命令は相手の職長が行う。注文書・注文請書を交わす
- 自社で雇用する:自社の労働者として雇用契約を結び、自社が指揮命令する
「人だけ借りて自社の職長が指示する」形は偽装請負になる典型です。常用の人工で請負契約を結ぶ場合も、作業の指示は相手側の責任者を通すよう、現場での動き方まで決めておきます。
利益を守る:単価・支払条件の点検
改正は単価を上げる交渉の後ろ盾になります。ただし、自社の数字を持たずに法令だけを持ち出しても交渉は進みません。数字の点検方法を示します。
自社の人工単価を公共工事設計労務単価と必要経費で点検する
公共工事設計労務単価(2026年3月適用)は、全国全職種の加重平均が25,834円です。前年3月比で+4.5%、14年連続の引上げになりました。勧告文書では、平成24年から令和7年までの13年間で全国全職種平均が約90%上昇したと記載されています。この単価は公共工事の積算に使う賃金で、所定労働時間内8時間あたりの額です。民間工事の相場や一人親方の手取りではありません。
国土交通省は、労務単価25,834円の場合、事業主が労働者1人を雇うのに必要な経費を38,234円(148%)と示しています。内訳は次のとおりです。
- 法定福利費・労務管理費等:7,492円(29%)
- 安全管理費・宿舎費・送迎費等の現場作業にかかる経費:4,909円(19%)
国土交通省は、必要経費分を下請代金に計上しない、または値引くことを不当行為としています。自社が協力会社に払っている人工単価が、労務単価だけを基準にしていて経費分を含んでいないなら、見直しの対象です。逆に受注側では、自社の請負単価から経費分が削られていないかを確認します。
手間請け単価の下限を日当と施工量から逆算する
平米単価・メートル単価・坪単価といった手間請けの単価には、公的な基準値がありません。そのため「相場」で決めがちですが、改正後は労務費の根拠を説明できることが重要になります。下限の目安は次の式で出します。
- 日当の目安 ÷ 1日に施工できる量 = 平米単価などの下限の目安
たとえば東京都の内装工の公共工事設計労務単価(2026年3月適用)は34,400円です。自社の職人が1日に施工できる平米数でこれを割ると、労務分だけの下限が出ます。そこに法定福利費や移動・道具の経費を上乗せして考えます。施工量は現場条件で大きく変わります。自社の過去の日報から、条件別(新築・改修、階高、養生の有無など)の実績値を取っておくと、交渉で使える根拠になります。
支払条件を建設業法・取適法・フリーランス法の区分で確認する
利益が出ていても、入金が遅れると資金繰りが苦しくなります。支払条件は取引の種類ごとに適用される法令が違います。
- 建設業法:元請負人は注文者から出来高払・竣工払を受けた日から1か月以内に下請代金を支払う(第24条の3)。特定建設業者は、下請負人(特定建設業者・資本金4,000万円以上の法人を除く)からの引渡し申出日から50日以内とのいずれか早い方。50日を超えると遅延利息は年14.6%(第24条の6)
- 取適法(2026年1月1日施行・旧下請法):建設工事を他の建設業者に請け負わせる取引は対象外。図面作成や資材の製造など建設工事以外の委託は、基準を満たせば対象
- フリーランス法(2024年11月1日施行):従業員を使わない一人親方への工事の一部発注も対象になり得る。取引条件の明示と、受領日から60日以内の支払が必要
自社の支払サイトがこれらに合っているか、締め日と支払日の一覧で確認します。受注側も、自社に適用される支払期限を把握しておくと、遅延時に根拠を示して督促できます。
まとめ
建設業法改正2025のポイントは4つです。2025年2月1日施行の金額要件の引上げ、2025年12月12日全面施行の労務費の基準と著しく低い見積り・契約の禁止、工期ダンピングの禁止、そして先行施行されたおそれ情報の通知と変更協議です。受注側は、法定福利費を別の行にした内訳付きの見積書、資材高騰のおそれ情報の書面通知、工期の根拠の添付から始めます。発注側は、下請総額の判定、技術者の兼務特例の活用、比較条件を揃えた相見積もり、請負と雇用を書き分けた応援の頼み方を点検します。どちらの立場でも、公共工事設計労務単価と必要経費、自社の施工量実績を手元に置いておくことが交渉の土台になります。改正は単価上昇を約束するものではありません。それでも根拠を示せる会社ほど交渉の席に着きやすくなります。明日は、見積書の雛形と社内の金額基準表の2つを開くところから始めてください。