格付けランクとは何か:経審点数(P点)の仕組みをおさらいする
公共工事の入札に参加するには、各都道府県・市区町村が実施する「入札参加資格審査」を通過し、工事種別ごとにランク(格付け)が決定される。このランクは主に経営事項審査(経審)の総合評定値「P点」をベースに算出される。
P点は以下の4指標の加重平均で構成される。
- X1(完成工事高):2年または3年平均の年間完成工事高。P点全体の約25%を占める
- X2(自己資本額・利払前税引前償却前利益):財務健全性を示す指標。約15%
- Y(経営状況分析点):8つの財務比率から算出される。約20%
- Z(技術力):技術者数・国家資格保有者数・工事種別実績。約25%
- W(その他審査項目):社会性(保険加入・建退共・ISO等)。約15%
一般的に、土木・建築の主要業種では下記のようなP点帯でランクが分類される(都道府県・市区町村により異なる)。
- ランクA:P点 900点以上(大手・準大手)
- ランクB:P点 700〜900点未満(中堅)
- ランクC:P点 500〜700点未満(中小)
- ランクD:P点 500点未満(小規模)
ランクCに留まっている会社の多くは、P点でいえば520〜680点程度に位置している。ランクBの入口となる700点への到達には、平均して30〜80点の底上げが必要であり、これは「偶然の受注増」ではなく、計画的な数値管理によってのみ達成できる。
「取れる案件の上限額」が格付けで決まるリスク
ランクCのまま推移すると、1件あたりの受注上限が概ね5,000万円〜1億5,000万円程度に制限される自治体が多い。これは売上規模の天井を意味する。一方でランクBに上がると、3億〜5億円規模の発注案件にも参加できるようになり、粗利額・会社規模が一段階拡大する。格付けは「今の実力評価」ではなく「次の受注機会への切符」と理解することが経営判断の起点となる。
第1の柱:完成工事高を計画的に積み上げる2年戦略
X1の完成工事高は、経審では「2年平均」または「3年平均」のいずれか有利な方を選択できる。つまり、直近2年間の完成工事高が大きく伸びていれば、2年平均を選ぶことでP点への反映が早まる。逆に過去3年が良好で最近落ちている場合は3年平均が有利になる。この「選択制」を活かした工事高の積み上げ計画が重要だ。
完成工事高を引き上げる3つの実行アクション
①民間受注との組み合わせで公共工事の不足分を補う
公共工事だけに依存している会社は、入札不調や案件減少の影響を直撃で受ける。民間工事(マンション改修・工場改修・商業施設等)を積極的に受注し、年間完成工事高を底上げすることで、X1の平均値を引き上げる。目安として、現状の完成工事高が年3億円であれば、2年で4億〜4.5億円に引き上げる計画を立てる。
②工事完成基準と進行基準の計上タイミングを最適化する
完成工事高は「いつ売上計上するか」によって経審の対象年度が変わる。複数年にまたがる工事では、工事完成基準と工事進行基準のどちらを採用するかを会計士と事前に協議し、経審申請時期との整合を取ることが数値最大化の第一歩となる。工期末の3月・9月に集中する引き渡し案件は、工期設定を見直すことで計上年度をコントロールできる場合がある。
③協力会社との共同施工で受注規模を拡大する
単独では施工体制が整わない規模の工事も、信頼できる協力会社と元下関係を明確にした上で受注することで、完成工事高として計上できる。ただし、名義貸しや実態のない丸投げは建設業法違反になるため、現場代理人・主任技術者の配置と施工管理体制の確保が前提条件となる。
第2の柱:自己資本を2年で1.5倍にする財務改善の進め方
X2の指標に含まれる「自己資本額」は、純粋に貸借対照表上の純資産(自己資本)の額を見る。中小建設会社がランクCに留まる最大の理由の一つが、この自己資本の薄さにある。自己資本5,000万円以下の会社は、X2の点数が伸び悩み、P点全体を引き下げている。
自己資本を積み上げる5つの具体策
自己資本は「内部留保(利益の蓄積)」と「増資」の2つのルートで増やす。以下に実践的な手順を示す。
- 役員報酬の最適化:経営者が過大な役員報酬を取り続けると利益が残らない。役員報酬を適正水準(たとえば月額80万円→60万円)に引き下げ、差額を会社の利益として内部留保する。年間240万円の差が2年で480万円の純資産増加につながる
- 不良在庫・滞留債権の整理:長期未回収の完成工事未収入金や不良在庫を整理することで、実態純資産が改善する。特に3年以上回収できていない売掛金は貸倒引当金の計上を検討し、財務の透明性を高める
- 含み益資産の再評価:自社保有の土地・建物に大きな含み益がある場合、税理士・公認会計士と協議の上で資産再評価を検討する。これにより帳簿上の純資産が増加し、X2の点数改善に直結する
- 増資(第三者割当・オーナー増資):金融機関からの融資を一部資本性ローン(劣後ローン)に切り替えることで、実質的な自己資本として扱われる場合がある。また、オーナー自身が会社に貸し付けていた役員借入金を資本に振り替えることで自己資本を増やせる
- 利益率の高い工事に集中する:粗利率15%以上の工事を選別受注し、粗利率8%以下の薄利案件から段階的に撤退する。売上規模を維持しながら利益率を3〜5ポイント改善するだけで、年間純利益が数百万円単位で変わる
自己資本5,000万円の会社が2年間で7,500万円を目標とする場合、年間1,250万円の純利益積み上げが必要になる計算だ。経審では自己資本の絶対額が評価されるため、利益の社外流出を最小化することが最優先となる。
第3の柱:技術者数・資格者数を2年で底上げする人材育成戦略
Z点(技術力)は技術者数・資格保有者数・元請け工事実績の3要素で構成される。ランクCに留まる会社の多くは、施工管理技士の資格保有者が代表者1名+若手1〜2名という構成であり、Z点が伸び悩んでいる。
資格取得を組織的に推進する仕組みづくり
技術者数を増やす最も確実な方法は、社内での資格取得支援制度を整備することだ。以下の施策を2年間で順次実施する。
- 1・2級施工管理技士の受験計画を全技術者分作成する:現在2級のみ保有の技術者には、1級の一次・二次試験の受験スケジュールを会社主導で設定する。受験費用(受験料:約1〜3万円)・テキスト代・直前講習費(1〜5万円)は全額会社負担とする
- 資格手当を設定して取得モチベーションを高める:1級土木施工管理技士取得で月額1万〜2万円、1級建築施工管理技士で月額1.5万〜3万円の資格手当を新設する。初年度の追加人件費は年間30万〜100万円程度だが、経審Z点改善による受注増の効果は年間数千万円規模になり得る
- 専門技術者(監理技術者補佐)の配置要件を活用する:2021年の建設業法改正により、監理技術者補佐(1級施工管理技士補)を配置することで、監理技術者の兼任が認められる案件が増えた。技術者の実質的な稼働効率を上げることで、同一の人員で対応できる現場数が増加し、完成工事高増加にもつながる
- 中途採用で即戦力資格者を確保する:自社育成に時間がかかる場合は、1級施工管理技士を保有する50代のベテランを採用するのも有効だ。月給35万〜50万円程度で雇用できるケースが多く、採用後すぐに経審Z点に加算される。ただし、経審の技術者カウントは「常勤」が条件であるため、雇用契約・社会保険加入・勤務実態の3点セットが必須となる
元請け工事実績を計画的に積む
Z点の「元請け工事の件数・規模」は、下請けとして施工した工事はカウントされない。ランクCから脱出するには、小規模案件でも「元請け」として受注した実績を積み上げることが必要だ。500万円〜2,000万円規模の民間発注工事を直接元請けとして受注し、年間5〜10件の実績を2年間で積み上げることで、Z点を5〜15点改善できる事例がある。
W点(社会性)を確実に取りこぼさない:見落としがちな加点項目
W点は「当たり前の義務履行」への加点だが、対応漏れで失点している会社が散見される。以下の項目を全て満たすことで、W点を最大化する。
- 建設業退職金共済(建退共)への加入:加入済みであれば加点対象。証紙購入実績の記録を適切に保管する
- 健康保険・厚生年金・雇用保険の適正加入:全作業員の社会保険加入が完了していれば加点。未加入があると減点リスクもある
- ISO 9001・ISO 14001認証取得:取得済みの場合はW点に加算される。未取得でも、取得に向けた準備を進めることで2年後の経審に間に合わせることができる
- 建設業経理士(1級・2級)の在籍:自社に建設業経理士が在籍している場合、W点の「経理の状況」として加点される。経理担当者への受験支援を行い、2年以内に2級取得を目指す
- ワーク・ライフ・バランス関連認定:えるぼし・くるみん等の認定を受けている場合、一部の自治体経審でW点に加算される
W点の満点は15点程度だが、ランクCとBの境界線付近では、この15点が入札参加の可否を左右することがある。「取れる点数を確実に取る」姿勢がP点底上げの基本となる。
2年間ロードマップ:月次行動スケジュールの具体例
以下に、現在P点600点・ランクC(土木工事業)の会社がP点720点・ランクBを目指す場合の2年間ロードマップを示す。
- 1〜3ヶ月目(現状分析・計画策定):直近の経審申請書・決算書を並べ、X1・X2・Y・Z・W各指標の現状値と目標値を数値で確定する。経審補助業務に精通した行政書士または中小企業診断士と顧問契約を結び、月1回の数値レビュー体制を整える
- 4〜6ヶ月目(財務改善着手):役員報酬見直し・滞留債権整理・高利益案件への受注シフトを開始する。建設業経理士の受験申込(6月・11月試験)を実施する
- 7〜12ヶ月目(技術者育成・資格取得):施工管理技士一次試験(6〜7月)・二次試験(10〜11月)に複数名が受験できるよう、3月から学習支援を開始する。元請け工事の受注件数目標(年5件以上)を営業方針に明記する
- 13〜18ヶ月目(完成工事高の積み上げ確認):1年目の完成工事高が計画通りかを四半期ごとに確認する。2年平均の試算を行い、目標未達の場合は追加の民間工事受注を強化する
- 19〜24ヶ月目(経審申請・格付け申請準備):決算書の最終確認・自己資本額の到達確認を行う。経審申請日を逆算し、申請書類の準備を3ヶ月前から着手する。格付け申請は経審結果通知後60〜90日以内に各発注機関へ提出する
まとめ
格付けランクCからランクBへの脱出は、「運良く受注が増える」ことを待つのではなく、P点を構成する完成工事高・自己資本・技術者数・社会性という4つの数値を計画的に引き上げることで実現できる。
特に重要なのは以下の3点だ。
- 完成工事高は「2年平均」の選択制を活かし、民間工事・元請け工事を組み合わせて年間完成工事高を1.3〜1.5倍に引き上げる
- 自己資本は役員報酬の最適化・利益率改善・役員借入金の資本振替で2年間に1,500万〜2,500万円の積み上げを目指す
- 技術者数は資格取得支援制度と資格手当の設定で、2年間で1〜3名の1級施工管理技士を新たに確保する
2026年現在、建設業界は公共工事予算の維持・拡充が続いており、ランクBへの到達は受注拡大の直接的な機会に結びつく。P点目標値と達成期限を経営計画に明記し、月次の数値管理を徹底することが、格付けランクアップへの最短ルートである。